甘木鉄道株式会社 様
甘木鉄道株式会社 様
甘木駅(福岡)〜基山駅(佐賀)
「地域性をイメージしたメロディ」「沿線の川を表現したメロディ」「平和への祈りを込めたメロディ」。時折、このようなコンセプトが明示されることがあります。その説得力とは何かと考えると、それは導入者の「地域的表現」の見解に大きく依存しているように思われます。
たとえば、(サイン音としての適否はひとまず措くとして)和歌山県をテーマとした「地域的表現コンクール」を世界に向けて開催し、その結果ブラジル人の制作した作品が最優秀賞に選ばれたとします。その作品が審査を通じて支持を得たのであれば、それは和歌山県を表現する音楽として一定の説得力を持つでしょう。
また、地元を熟知した出身者が創作したという事実そのものに「地域的表現」としての価値を見出す方もいるでしょう。あるいは、世界的に活躍する音楽家がその土地を主題として制作した作品に、特別な価値を認める方もいるかもしれません。
このように、「地域的表現」の説得力を支える根拠は一様ではありません。そこには作者の実力、アイデンティティ、作家性、経験など、様々な要素が関わっています。すなわち「地域的表現」とは単一の尺度によって評価されるものではなく、多様な価値観の上に成立しているものと考えられます。
「地域的表現は多義性である」ことを前提に、アイデンティティに説得力を持たせられない私だからこそ、概念レベルから地域を音楽表現で再構築し自律させることを目標としています。また音楽で表現したものを言葉で過度に埋め尽くし、音楽特有の抽象性を損なうことは避けたいです。言葉で説明できるものであれば、観光案内や文章によって伝える方が適しているかもしれません。音楽だからこそ伝えられるものがあり、また、聴く人それぞれの解釈や記憶と結び付く余白が残されていることにも価値があると考えています。
それでは、甘木鉄道様の車内メロディをどのような考えで制作したのか。私なりの試みの一例として、ぜひご覧いただければ幸いです。
甘木鉄道様には主に4種類の車内メロディをご提案しました。
1, 「風光る物語」
2, 「みんなの木」
3, 「甘い夢路」
4, 「郷愁」
3,「甘い夢路」は、波の音を模したシンセサイザー音や、残響を多く含んだ木琴(マリンバ)の音を使ったゆったりとした曲調としています。通勤通学でお疲れの方に特化した車内メロディです。
4, 「郷愁」はアコースティックギターに主旋律を担当させ、伴奏を管弦楽で構成したG♭メジャーの楽曲です。
始発発車前や各駅発車後に放送される「風光る物語」では、甘木鉄道沿線の景観を車内空間にデザインすることを試みました。すなわち、自然風景を形作る一つ一つの要素を音で抽象化・記号化し共存させています。作曲にあたり参考にした景観は、甘木駅~高田駅間です。
本区間で交差する小石原川(こいしばるがわ)の穏やかな流れ、春になると土手一面に咲き誇る菜の花、線路沿いに植えられた木々など、多様な要素がそれぞれの個性を保ちながら共生しています。こうした風景に着想を得て、各弦楽器には異なる動きや表情を与えた上で、全てが調和するよう表現しました。
また、高田駅付近では左右の車窓に田園地帯が広がり、奥には山々が連なります。この果てしない空間の広がりを車内で演出できればと考え、伴奏部分に残響を多く含ませました。これら、多様な要素の共生、広大な空間に包まれる心地よさや喜びを旋律に表しました。
なお、曲全体の軽やかでな曲調は、AR300形・AR400形の自動放送において始発発車前に流れていた音楽を継承したものでもあります。沿線の景観だけでなく、長年親しまれてきた車内空間の記憶にも思いを巡らせながら制作しました。
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